
「“損失”でも確定申告した方がいいのか?」
「“損失”が出た場合には、どの申告書を作成する?」
というように、実際に“損失”が出たときの申告について分からない方も多いでしょう。
しかし分からないからと言って確定申告をしないと、受けられるはずだったメリットが受けられません。
そのようなリスクを回避するためにも、当記事にて下記3点を解説していきます。
- “損失”でも確定申告する?どんなメリットがあるの?
- “損失”申告する際に気を付けることは?
- “損失”を申告する第四表の書き方
少しでも不安を感じている方は、当記事で確認した上で次の行動に移りましょう。
もくじ
“損失”でも確定申告する?どんなメリットがあるの?
“損失”の場合は納める税金が生じず、申告が義務ではないことから「確定申告は必要ない」と考える方も多いです。
しかし下記のように“損失”申告すると受けられるメリットもあるので、それを得るためには申告しておくのがベスト。
- 還付金が受けられる
- 所得の証明書類が得られる
- 損益通算できる
- 【青色申告者】損失の繰越・繰戻ができる
- 【白色申告者】一部の損失に限り繰越できる
どのようなメリットなのか確認して、“損失”が出た際に確定申告するかどうか考えてみましょう。
①:還付金が受けられる
個人事業主でも、下記いずれかに該当する場合には、還付金が受けられます。
- 会社に勤めていたが、退職して個人事業主になった
- 取引先から毎月報酬を受け取る際に、所得税が源泉徴収されている
- 前年が黒字・予定納税の基準に該当したため、税務署の通知どおり予定納税*している
どの場合においても確定申告をしなければ、還付金は受けられません。
確定申告して還付されるのは、すでに納めている税金のうち「納めすぎた金額」です。
そしてその還付金を、①は初年度のみ、③は黒字の翌年のみ還付に対し、②は毎年還付される可能性があります。
予定納税*…前年の納税額の1/3の金額を7月と11月に前もって納めておく制度。予定納税の基準を確認したい方は、国税庁/「予定納税」をご覧ください。
毎年1月~2月頃に取引先から交付される「支払調書」を確認すると、前年分の明細が記載されています。
ただしこの「支払調書」を交付することは義務ではないので、すべての取引先から交付されるとは限りません。
もし「支払調書」が届かない場合は、取引先に交付を依頼しましょう。
②:所得の証明書類が得られる
個人事業主が所得を証明するには「確定申告書」を見せるしかありません。
確定申告が受理されていれば、あなたの所得額 or 所得がないことを国が証明している証になります。
所得を証明できると役立つのは、主に下記のような場面です。
- 住宅ローンを組む
- 事業融資を受ける
- 児童手当の申請(その他福祉分野における申請など)
- 国民年金保険料が優遇
実際に上記のような場面に出遭わないとピンと来ないかもしれませんが、いずれ必要になった時にないと困りますよね。
また受けられるはずの優遇措置が受けられないなど、後々のことを考えると確定申告は必要でしょう。
③:損益通算できる
損益通算とは、複数の所得を得ている方が黒字の所得と赤字の所得を相殺すること。
下記4つの所得が赤字だった場合にのみ、他の黒字と相殺(=損益通算)が可能です。
- 事業所得
- 不動産所得
- 譲渡所得
- 山林所得
上記4つの所得で生じた損失でも、損益通算できない損失もあるので注意しましょう。
この点を逆手に取り、他の所得で黒字が見込める場合に上記4つの所得の赤字を当てられれば、納税額を抑える効果アリ。
損益通算をしても損失が控除しきれないと、損失を繰越・繰戻に回します。
④:【青色申告者】損失の繰越・繰戻ができる
青色申告は3年間、損失の繰越・繰戻ができる優遇措置が設けられています。
そのため当期に発生した損失を申告しておくと、翌年から3年間で生じた利益を減少させることが可能です。
部品の仕入れに予想以上の費用がかかり、昨年(2018年)の業績は200万円の損失でした。
しかし今年(2019年)は新たに仕入れた部品がヒットしたおかげで、300万円の利益が出るまでに回復。
上記例の場合、2018年の200万円を損失申告しているか否かで、今年の納税額が大きく異なります。
損失申告していない場合の納税額は、2019年の300万円(利益)に所得税率をかけた金額です。
それに対して損失申告をしている場合は、以下の式で求めた金額に所得税率をかけるため、納税額が減少します。
300万円(2019年の利益)ー200万円(2018年の損失)=100万円
繰越できる“損失”
青色申告者の場合は、「居住用財産に係る通算後譲渡損失」以外の損失の繰越しが可能です。
たとえば以下のような損失がすべて繰り越せます。
- 純損失…損益通算できる4つの所得のうち、損益通算後でも残っている損失
- 変動所得の損失…事業所得のうち、特定品種の漁業・養殖業・印税・原稿料・作曲料など変動の大きい所得
- 被災事業用資産の損失…災害などにより、棚卸資産などの事業用固定資産に生じた損失
- 雑損失…災害などにより、生活に必要な資産に生じた損失
- 株式などに係る譲渡損失
- 先物取引・FXに係る損失
⑤:【白色申告者】一部の損失に限り繰越できる
白色申告では基本的に損失を繰り越すことはできません。
損失を申告しても、その年で切り捨てられます。
しかし白色申告においても、下記3つの損失に限り、3年間の繰越しが可能です。
- 変動所得
- 被災事業用資産の損失
- 雑損失
“損失”申告する際に気を付けることは?
“損失”申告をする前に、確認しておくべき3点を紹介します。
- 適用条件に該当するか
- 必要な添付書類は把握できているか
- 【青色申告者】青色申告控除金額を含めて計算していないか
①:適用条件に該当するか
“損失”申告を行うには、下記に該当していることが条件です。
- 繰越できる損失が生じている
- 損失が生じた年以後連続して、確定申告書を提出している
損失が生じた年以後に確定申告する際は、次のいずれの場合でも、別表第四表の提出が必要になります。
□ 損失が生じた翌年も、損失が生じている
□ 前年から繰越された損失額を今年の黒字から控除する
□ 翌年に繰越控除しても、繰越損失額が残っている
②:必要な添付書類は把握できているか
別表第四表を提出する際は、損失の種類により別途下記のような書類が必要です。
下記書類をクリックすると、国税庁が提供しているテンプレートを確認できます。
- 被災者事業用資産の損失…申告書第四表(損失申告用)付表(東日本大震災の被災者の方用)
- 上場株式等に係る譲渡損失…確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)
- 特定投資株式に係る譲渡損失…確定申告書付表(特定投資株式に係る譲渡損失の損益の通算及び繰越控除用)
- 先物取引・FXに係る損失…平成□年分の所得税の□申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)
また還付金を受ける際は、どのパターンの還付金かによって、添付書類が異なります。
たとえば上記で紹介した「会社に勤めていたが、退職して個人事業主になった」場合は、源泉徴収票が必要など。
他の場合においては、国税庁/「還付申告」にてご確認ください。
③:【青色申告者】青色申告特別控除を含めて計算していないか
青色申告特別控除は、黒字の時に利益から差し引ける控除なので、赤字の場合には利用できません。
収入から費用を差し引いた金額が利益であれば、その金額から青色申告特別控除を差し引きます。
また収入から費用を差し引いて出た利益が、青色申告特別控除の金額よりも少ないと、利益は0ということになります。
〇:収入ー費用=利益>青色申告控除額=青色申告控除を利用しても残る利益に所得税率をかけて、納税額を算出。
×:収入ー費用=利益<青色申告控除額=利益は0なので、納税額も損失もなし。
青色申告特別控除の金額でマイナスになった分は「損失にならない」と覚えておきましょう。