
個人事業主の方は、確定申告の説明で「損益通算」を聞いたことがある方も多いでしょう。
損益通算は、“損失”が出ていない限り、利用することはありません。
そのため実際に”損失”が出たときに「損益通算」に手がつけられないという事態もありえます。
当記事で下記3点を確認し、納税額を少しでも抑えられるように、“損失”を活用する「損益通算」に取り組んでみませんか。
- 【損益通算】を理解するための前提知識
- 【損益通算】とは?
- 【損益通算】のやり方・順序
もくじ
「損益通算」を理解するための前提知識4点
「損益通算」をよりよく理解するためには、下記4点を確認しておく必要があります。
- 所得の種類は10種類
- 「総合課税」と「分離課税」
- 「申告分離課税」と「源泉分離課税」
- 「経常所得」と「非経常所得」
この4点の意味を確認しておけば、実際に損益計算の説明を読む際につまづかずに済むはずです。
①:所得の種類は10種類
所得はどのようにその収入を得たかによって、下記10項目の所得に分類されます。
その10種類の所得を合計した金額、もしくは個々に税率をかけて求められるのが、所得税額です。
そして「損益通算」が利用できるのは、この10種類の所得で赤字と黒字の両方が出たとき。
ただし所得の種類によっては、「損益通算」できないものもあり、その点は下記にて説明します。
不動産所得 | 配当所得 |
事業所得 | 給与所得 |
譲渡所得 | 退職所得 |
山林所得 | 一時所得 |
利子所得 | 雑所得 |
②:「総合課税」と「分離課税」
「総合課税」と「分離課税」は、所得税額の課税方法の区分です。
「損益通算」の計算で必要になると共に、申告書第三表・第四表を作成する際にも役立ちます。
- 「総合課税」…総合課税の対象所得を合計して税額を計算・課税する方法
- 「分離課税」…分離課税の対象所得は、個別に税額を計算・課税する方法
「総合課税」
総合課税の対象所得は、以下8点です。
総合所得 | 備考 |
利子所得 |
・源泉分離課税の対象 ・平成28年1月1日以後に支払いを受けるべき特定公社債等*の利子等 上記2つを除く。 |
配当所得 |
・源泉分離課税の対象 ・確定申告しないもの ・平成21年1月1日以後に支払いを受けるべき上場株式等の配当について、申告分離課税を選択したもの 上記3つを除く。 |
不動産所得 | ー |
事業所得 | 株式等の譲渡による事業所得を除く。 |
給与所得 | ー |
譲渡所得 | 土地・建物等・株式等の譲渡による譲渡所得を除く。 |
一時所得 | 源泉分離課税の対象を除く。 |
雑所得 |
・株式等の譲渡による雑所得 ・源泉分離課税の対象 上記2つを除く。 |
ちなみに一定の先物取引による事業所得、譲渡所得及び雑所得は、他の所得と区分して申告分離課税の方法により所得税が課されます。
(参考:国税庁/「総合課税制度」)
ステップ1:総合課税の対象所得を合計する
→利子所得+配当所得+事業所得=合計額
ステップ2:合計した総所得金額から、所得控除を控除する
→合計額(=総所得金額)ー所得控除=所得
ステップ3:速算表を見て、所得金額から税率を決める
→所得金額が250万円→税率10%
ステップ4:所得金額にその税率をかける
→所得金額×10%=OOO円
ステップ5:算出された金額から税率に対応する控除額を差し引く
→OOO円ー控除額=納税額
「分離課税」
分離課税の対象所得は7つありますが、その7つは以下2つの納税方法に区分されています。
- 申告分離課税
- 源泉分離課税
そのためこれら2つについて説明する際に、どのような所得が対象になるのか確認してみましょう。
③:「申告分離課税」と「源泉分離課税」
「申告分離課税」と「源泉分離課税」は、分離課税の納税方法の区分です。
- 「申告分離課税」…自ら確定申告することで所得税を納める方法
- 「源泉分離課税」…所得になる収入を支払う会社が源泉徴収して代わりに所得税を納める方法
「申告分離課税」
申告分離課税の対象は以下7点です。
- 譲渡所得
- 雑所得
- 山林所得
- 利子所得
- 上場株式配当所得(※選択制)
- 事業所得(※条件アリ)
- 退職所得
下記記事にて7つの所得の詳細に加えて、以下2点も一緒に確認しておくことをオススメします。
- 所得の種類ごとの計算方法
- 申告分離課税を利用する際に必要な第三表の作成方法
「源泉分離課税」
源泉分離課税の対象となるのは、主に以下のようなものです。
(1)利子所得に該当する利子等(総合課税・申告分離課税の対象となるものは除く。)
(2)私募の特定目的信託のうち、社債的受益権の収益の分配に係る配当
(3)私募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る配当
(4)懸賞金付預貯金等の懸賞金等
(5)次の金融類似商品の補てん金等
イ 定期積金の給付補てん金等
ロ 銀行法第2条第4項の契約に基づく給付補てん金
ハ 一定の契約により支払われる抵当証券の利息
二 貴金属などの売戻し条件付売買の利益
ホ 外貨建預貯金で、その元本と利子をあらかじめ定められた利率により円・他の外国通貨に換算して支払うこととされている一定の換算差益
へ 一時払養老保険・一時払損害保険などの差益(保険や共済の機関が5年以下・保険や共済の期間が5年を超えていてもその期間の初日から5年以内に解約したものの差益に限ります。)
(6)一定の割引債の償還差益
(引用:国税庁/「No.2230 源泉分離課税制度」)
源泉分離課税の対象となる所得は、すでに税金が源泉徴収・納付されているため、計算方法は省略します。
④:「経常所得」と「非経常所得」
「経常所得」と「非経常所得」の区分は、「損益通算」の順序を理解する際に必要です。
概要 | 所得の種類 | |
経常所得 | 1年間、定期的に収入が得られる所得 |
利子所得、配当所得、不動産所得 事業所得、給与所得、雑所得 |
非経常所得 | 不定期・突発的に収入が得られる所得 | 一時所得、譲渡所得、山林所得、退職所得 |
「損益通算」とは?
「損益通算」とは上記で説明した10個の所得のうち、複数の所得を得ている方で
- 黒字の所得
- 赤字の所得
どちらもある場合に「損益通算」できる赤字の所得と、他の黒字の所得を相殺することを指します。
それぞれの所得金額を算出して、損益通算できる所得が赤字だった場合は、所得金額を減らすことが可能です。
所得金額に所得税率をかけて所得税額を求めるので、所得金額が減れば、必然的に納税額も減少。
もし損益通算できる損失があるのにスルーしていると、節税チャンスを逃したと考えられます。
「損益通算」できる所得
「損益通算」できる所得は、以下4点です。
- 不動産所得…土地・建物などの貸付けによる収入
- 事業所得…事業から得た収入
- 山林所得…取得してから5年を超えた山林を売却して得た収入
- 譲渡所得…ゴルフ会員権、船舶、機械などを譲渡して得た収入
この4つの所得が赤字だった場合に限り、他の黒字の所得と損益通算ができます。
【例外】損益通算できない
上記4つの所得に該当していても、下記のように「損益通算」できない損失もあるので、ご注意ください。
- 生活に通常必要でない資産の譲渡により生じた損失(例:競走馬、ゴルフ会員権、骨とう品など)
- 生活に必要な動産を譲渡して生じた損失(例:家具、衣服、貴金属など1個・1組の価額が30万円未満のもの)
- 個人に対して資産を低額で譲渡したことにより生じた損失
- 申告分離課税の対象となる譲渡所得(土地建物など)の計算上生じた損失(特例①)
- 株式等の譲渡により生じた損失(特例②)
- 先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失(特例③)
- 不動産所得の計算上生じた損失のうち、下記に該当するもの
たとえば生活に必要な動産を譲渡して得た収入は、非課税所得に該当するため、税金の計算上なかったものとみなします。
このように上記の損失はすべて、税金の計算上なかったものとみなすため、損益通算はできません。
ただし特例によって、認められる損失もあるので、確認しておきましょう。
損益通算できない不動産所得の計算上生じた損失は、以下3点です。
- 通常必要でない趣味、娯楽、鑑賞の目的で所有する不動産に係る損失(別荘など)
- 土地等を取得するための借入金の利子
- 一定の組合契約に基づいて営まれる事業から生じたもので、その組合の特定組合員に係るもの
ちなみに居住用以外の不動産を譲渡して生じた損失は、同じ条件の譲渡所得以外の他の所得とは損益通算できません。
特例①:マイホームに関する特例
以下に該当する方で一定の条件に当てはまった方は、下記特例を利用しましょう。
- 居住用財産を買い替えた方
- 居住用財産を譲渡した方
そしてこの特例を利用すると、マイホームの買換え・譲渡により生じた損失を他の所得と損益通算できます。
あなたが利用できるのは「マイホームを買い替えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。
この特例は、令和元年12月31日までにマイホームを売却・購入し、売却の際に生じた損失が一定の要件を満たすと適用できます。
そしてこの特例が適用できると、損益通算が可能となるので、要件を確認しておきましょう。
あなたは「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を利用できるかもしれません。
この特例は、平成16年1月1日~令和元年12月31日までに住宅ローンのあるマイホームを売却して生じた損失が、一定の要件を満たすと適用できます。
下記の要件に当てはまっていると、損益通算できるので、ぜひ要件を確認してみてくださいね。
特例②:上場株式等に関する特例
上場株式等*の配当を受けていて、金融商品取引業者等を通じて上場株式等の譲渡をした際に損失が生じた方は、以下の特例を利用しましょう。
「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を利用すると、上場株式等に関する下記2つを損益通算できます。
- 譲渡損失
- 配当所得(申告分離課税に限る)
配当所得の申告方法を申告分離課税にすると、総合課税だと受けられる「配当控除」が受けられません。
「配当控除」とこの特例のどちらを受けた方が節税になるのか、あらかじめ調べておくことをオススメします。
税理士などの専門家に税額の計算を依頼し、金額を出してもらってから選択するのも手です。
特例③:先物取引に関する特例
先物取引の差金決済により損失が生じた場合は「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」を利用しましょう。
これを利用すると、先物取引を差金決済した場合に生じる所得の損益通算が認められます。
先物取引とは、将来いつの時点で、なにかをいくらで買う・売る契約をする取引のこと。
以下の例は、商品の受け渡しのある先物取引です。
A田さんは、1週間後の火曜日にダイヤモンドを5万円で購入する契約をB山さんと結びました。
そして1週間後のダイヤモンドの価額が7万円に上昇。
B山さんは2万円の損失を被りましたが、A田さんは2万円安く購入できました。
ただし今回の特例では、商品の受け渡しのない差金決済に限り適用できます。
差金決済とは、契約した金額(5万円)と1週間後の価額(7万円)の差額2万円を授受する決済方法のことです。
特例を利用できる先物取引は限られているので、利用できるか下記で確認しておきましょう。
「損益通算」の順序
損益通算ができる損失があった方は、損益通算していく順序を確認していきましょう。
損益通算は、以下の5ステップで行います。
- 「利子・配当・給与・雑」ー「不動産・事業」
- 「一時」―「譲渡」
- ①ー② or ②-①
- 「山林」ー③
- 「退職」ー④
①:「利子・配当・給与・雑」ー「不動産・事業」
1つ目のステップでは、「経常所得」である「利子、配当、給与、雑、不動産、事業」の所得内で計算。
経常所得の中で損益通算ができるのは、「不動産・事業」に損失があった場合のみです。
その際は「利子・配当・給与・雑」の利益から「不動産・事業」の損失を差し引きます。
「利子・配当・給与・雑」ー「不動産・事業」
「利益 500万円」ー「損失 400万円」=「利益 100万円」
②:「一時」ー「譲渡」
2つ目のステップでは、非経常所得のうち「一時」と「譲渡」で計算。
損益通算できるのは「譲渡」が損失だった時のみなので「一時」の利益から「譲渡」の損失を差し引きます。
「一時」ー「譲渡」
「なし」ー「損失 300万円」=「損失 300万円」
③:①-② or ②-①
①の経常所得と②非経常所得において、どちらかが損失だった場合、損益通算できます。
①ー②(逆の場合もあり)
「利益 100万円」ー「損失 300万円」=「損失 200万円」
④:「山林」ー③
③をしても控除しきれない損失がある場合は、山林所得の利益から差し引きます。
「山林」ー③
「利益 100万円」ー「損失 200万円」=「損失 100万円」
⑤:「退職」ー④
④でも控除しきれない損失がある場合は、退職所得から差し引きます。
「退職」ー④
「利益 200万円」ー「損失 100万円 」=「利益 100万円」
損益通算をしても、損失が残った場合、申告書第四表を提出し申告をすると、損失を繰り越すことができます。
下記記事にて以下の項目を確認した上で、損失を申告してみましょう。
- 繰り越すことができる損失・できない損失
- 申告書第四表の書き方
“損”した分「損益通算」で、納税額を少しでも抑えましょう。
今回は「損益通算」について、以下の順に説明してきました。
- よりよく理解するために必要な知識
- 損益通算とはなにか
- 損益通算のやり方
「損益通算」は納める税金を抑える効果があるので、損失のある方は損益通算ができる所得に該当するか、ぜひご確認ください。
所得が複数あると、損益通算の計算がとても複雑になります。
そのせいで下記のような疑問が生じたら、税理士などの専門家に正確な金額を出してもらうといいでしょう。
- 計算した金額が正しいのか
- 損益通算した方が納税額を抑えられるのか
そしてその金額を見て、本当に納税額を抑えられたか確かめてみてくださいね。
※下記フォームからのお問い合わせが、節税への近道!